「みんな忘りよと」

みんな 忘りよと あきらめて
はるばる 海に きてみたが
浪が どんどと 打つばかり
  消えては うかぶ 帆をみてて
  なぜ なぐさまぬ おもひだろ

みんな 夢だと あきらめて
はるばる 山に きてみたが
霧(きり)が 渓間(たにま)に 涌(わ)くばかり
  消えては 光る 樹をみてて
  なぜ 忘られぬ おもひだろ

みんな 運命(さだめ)と あきらめて
はるばる 街に きてみたが
ひとが 往き來を するばかり
  消えては 點(とも)る 灯をみてて
  なぜに 泣きたい おもひだろ

掲載誌:『歌謡詩人』 昭和8年9月 17~18ページ